「ブランディングって、結局何をすればいいの?」
20年間で400〜500案件を手がけたブランドプロデューサー・柴田陽子氏が明確な答えを示しています。
本記事では、ローソンや日本交通などの成功事例をもとに、勝てるコンセプトの3条件、ブランディングプロセス、2024年以降最も重要になる「共感」の作り方まで解説します。
ブランドプロデュースとは?
ブランドプロデュースとは、戦略的にファンを獲得し、商売上の優位性を確立するためのプロセスです。
ブランドプロデューサーとして20年間で400〜500案件を手がけた柴田陽子氏は、ブランドを「ファンをつけることによって、その塊が得をしている状態」と定義しています。
※塊:人や会社、商品など、ブランド化の対象となる単位のこと。
ブランドとブランディングの違い
多くの人が混同しがちなブランドとブランディングですが、明確な違いがあります。
| 用語 | 定義 | 具体例 |
| ブランド | ファンがついて優位性を持つ「塊」 | 人、会社、商品群、店舗など |
| ブランディング | ブランドを戦略的・計画的に作るプロセス | コンセプト設計、戦略立案、実行 |
ブランディングの目的は、スペック(性能や価格)ではなく、「好きだから」「応援したいから」「共感するから」という理由で選ばれることにあります。
日本企業のブランド意識の変化
20年前、日本企業の多くは「コンセプトやブランドを外部に頼むのは社員がサボっている証拠」という考え方でした。しかし、現在は大きく変化しています。
現在では「ブランディングしたい」「ブランドを作りたい」というオーダーが当たり前になっています。
特に、マーケティングは自社でできても、その事実からアイデアを生み出して新しいテーマを設定する「ブランドコンセプト」の部分で、外部の力を求める企業が増加しました。
勝てるコンセプトの作り方
良いコンセプトには、3つの条件があります。
良いコンセプトの3条件
(1)時代を捉えて結果が出せるコンセプト
経済活動の中で、実際に成果を生むコンセプトでなければ意味がありません。
たとえば、今の時代に「抱きたい女」というコンセプトでアイドルを作っても、時代感覚とズレているため、結果は出ません。今の市場環境で勝てる切り口を見つけることが重要です。
(2)長く続くコンセプト
継続することでコンセプトが深まり、より大きな影響力を生み出せます。短期的な流行を追うのではなく、5年、10年と続けられる普遍性を持つことが求められます。
(3)内部の人が共感するコンセプト
社員やスタッフが「私も参加したい」「一緒に作りたい」と思えることが、成功の鍵です。チーム全体が同じコンセプトに向かって動けるかどうかで、実現力が大きく変わります。
成功事例1:ローソン
ローソンの「ウチカフェスイーツ」は、コンセプトが「いつでもおうちがカフェになる、私のミカタ」です。
解決した課題
- コンビニの夜間集客不足
- 女性客の集客率向上
コンセプトに込めた意図
- 「おうちがカフェになる」:夜の時間帯に自宅をカフェ化できるほどおしゃれなパッケージと商品
- 「私のミカタ」:ターゲット層(OLや働く女性)に寄り添う感覚
- 家庭環境との調和:家で淹れるコーヒーや紅茶とよく合う設計
このコンセプトは3つの条件すべてを満たしており、長期的な成功を収めています。
成功事例2:日本交通
日本交通のコンセプトである「ビジネスクラスのタクシー」は、短く的確で、想像力が働くコンセプトです。
「ビジネスクラスのタクシー」という表現は、他社より優位に立つポジショニングを一言で表現しています。
成功事例3:ホテル
名古屋にあるホテル「TIAD(ティアド)」のコンセプトは、「Tomorrow Is Another Day(ゲストの明日が変わる)」です。
従来のホテルは、高単価を狙って夜にたくさんの料理を提供する傾向がありました。しかし、ティアードでは発想を転換しています。
- お腹いっぱいにすると翌日の体調が悪くなる
- 8〜9分目で本当に美味しいものを提供
- 非日常感を味わいながら、翌日のパフォーマンスを重視
ゲストの明日が変わることにフォーカスした結果、ジムやスパのあり方も含めて、全体設計が変わりました。
ブランディングの進め方
ブランディングは、3つのフェーズで進めます。
マーケティングフェーズの3ステップ
柴田氏の事務所では、コンセプト作りの前に「マーケティングフェーズ」として事実を正確に捉える工程を設けています。
ステップ1:己を知る
- 自社の強みと弱み
- 頑張ればできること
- 一生懸命頑張ってもできないこと
- 経営者の考え方
- 会社の背景、ビジョン、伝統
強みを最大限に生かせる状態にコンセプトを結びつけることが重要です。
ステップ2:敵を知る
競合を明確に定義し、深く分析します。誰が敵に当たるのかを正しく設定することで、差別化ポイントが見えてきます。
ステップ3:マーケットを知る
- 顧客の心理
- 対象に対する客観的評価
- 現在どう見られているか
ブランディングは「どう見られたいか」を戦略的に作る作業なので、現在の認識とのギャップを把握することが不可欠です。
実施期間とスピード感
ブランディングプロジェクトは、約3ヶ月で完了します。「早すぎる」と驚かれることも多いですが、集中力を切らさずに一気に形にすることが重要です。
「内面を深掘りするのに3ヶ月で足りるのか?」という疑問もありますが、深さとスピードは、下記のように適切な段取りによって、両立可能です。
- ヒアリングの段取りを徹底的に整理
- 視察の効率化
- 無駄のない進行管理
2024年は共感の時代
2024年のトレンドは「共感」であり、今後さらに重要性が増します。
なぜ共感が重要なのか
現代人は情報過多の中で、何を信じればいいか迷っています。
- SNSの情報は「半分に聞いておこう」と疑われる
- 本当に信用できるものが見えにくい
- だからこそ、信じられるものが浮き上がる
心配や不安が多い時代だからこそ、共感できるブランドが選ばれます。
共感を得るためにブランドがすべきこと
本質的に共感できる人格であること
表面的な伝え方だけでは不十分です。
- 事業の目的に社会性があるか
- すべてのことに理由があるか
- 社員に何を提供し、どこに導くかを明言できるか
内省(自己を見つめ直すこと)が出発点となります。
嘘をつかないこと
今の時代、特に動画の時代では、取り繕っても必ずバレます。
- 本や文章は編集で脚色できた
- しかし映像は雰囲気がそのまま伝わる
- 視聴者は質問者の姿勢も含めて見ている
誠実さが何よりも重要です。
ターゲットを明確にすること
全員に好かれる必要はありません。好かれたい人を明確に定義し、その人たちに好かれることが重要です。
YouTubeのコメント欄などで否定的な意見があっても、それは気にする必要がありません。自分たちのターゲットからの共感があれば十分です。
ターゲットの定め方
ターゲット設定の段階で、勝てるか勝てないかの大半が決まります。
ターゲット設定の重要性
マーケットとのマッチング、商品との整合性など、立て付けの段階で不具合があれば、成功できません。ブルーオーシャン(誰もやっていない市場)は一見魅力的ですが、実は危険です。
理由は、以下の通りです。
- 比較対象がないと人に語れない
- 「今、何見てる?」「あっちじゃなくてこっち」という会話が成立しない
- マーケット自体の説明から始める必要があり、時間がかかりすぎる
理想的なターゲット設定としては、みんなが興味を持っている分野で、圧倒的な勝者がいない領域を狙うのが最適です。
お笑い芸人の世界でも同じです。普通のお笑い芸人がいるからこそ、スターが輝きます。誰もいないマーケットにスーパーマンが現れても、人気は出ません。
日本のスタートアップの現状
日本のスタートアップ、特にBtoC分野での成功例が少ない理由は、圧倒的な信念がないからです。よくある問題点としては、下記のようなものがあります。
- 上場モデルやM&Aなど、短期的な出口戦略ばかり考えている
- 100年続く事業として何を得るのか、という視点が薄い
- 時間軸の中での価値創造への意識が不足
現代はマスや王道に行きにくい時代ですが、それでもニッチすぎる戦略には限界があります。
問題は企業家だけでなく、投資家側も浅いことです。グラフやデータで説明できることだけで判断するのではなく、共感で測れる投資家が増えることが必要になります。
日本のブランディングの可能性
日本には素晴らしい伝統が数多く眠っており、それらを現代に蘇らせることが重要です。
伝統を活かすポイント
日本人は、言語化が苦手な傾向にあります。
- 古いものを若い人が受け取りたくなる言葉に変換
- バトンをリレーできる形に仕立て直す
- 次の時代に合う事業モデルとセットで渡す
伝統を単に守るのではなく、言語化して進化させることが必要です。
東京会館のリブランディング事例として、創業からの思いや歴史を読み解き、来館者に感じさせる形に落とし込みました。
伝統を活かしながらモダンに進化させることで、幅広い世代に支持される施設に生まれ変わったのです。
日本のブランディング構想
もし日本国のチーフブランディングオフィサーになったら、柴田氏は「日本国民みんなが賛成できる日本のコンセプトをワード化したい」と答えています。
- 「貧乏でもいい。思いやりがあるのが一番かっこいい」といったコンセプト
- 来日する人に全力でおもてなしをして、そこで張り切ることが輝きだと定義
- GDPなどの数字よりも、国民が張り切れているかを重視
自虐をやめて、自信を持つことから始めるべきです。
日本の強み
海外に行くとわかる日本の評価としては、
- 旅行先として最高
- 人柄が良い
- 嘘をつかない
- 清潔
- 食事が美味しい
- 自然が美しい
私たちはこの素晴らしい環境で生まれ育っているという自信を持つべきです。
- 誠実さ
- 優しさ
- 謙虚さ
これらの特徴は、世界中の人々が共感する日本人の「スイート」な性質です。人からキャラクターを設定されると、自然とそちらの方向に行動や選択が向かいます。
日本人のキャラクターを最大の武器として、あらゆるサービスや場所を作っていくべきです。
ブランドに関してよくある質問
Q1:ブランディングとマーケティングの違いは?
マーケティングは市場調査やデータ分析を通じて、顧客ニーズを把握する活動です。一方、ブランディングはそのデータからアイデアを生み出し、「好きだから」「共感するから」選ばれる状態を戦略的に作るプロセスです。
マーケティングが「現状把握」なら、ブランディングは「理想の姿の実現」と言えます。
Q2:良いブランドコンセプトの条件とは?
良いコンセプトには、以下3つの条件があります。
- 時代を捉えて結果が出せること
- 5年10年と長く続けられる普遍性があること
- 社員やスタッフが「参加したい」と共感できること
3つすべてを満たすことで、持続的な成果を生むブランドが構築できます。
Q3:ブランディングにはどのくらいの期間が必要?
ブランディングは約3ヶ月で完了します。短いと驚かれますが、ヒアリングの段取りを徹底的に整理し、視察を効率化することで、深さとスピードの両立が可能です。
集中力を切らさず一気に形にすることが、成功の鍵となります。
Q4:なぜ2024年以降は「共感」が重要になる?
現代人は情報過多の中で何を信じればいいか迷っています。SNSの情報も疑われる時代だからこそ、本質的に誠実で共感できるブランドが選ばれます。
特に、動画時代では取り繕ってもバレるため、事業の社会性や目的の明確さなど、内面からの誠実さが求められています。
Q5:ターゲット設定で注意すべきポイントは?
全員に好かれようとせず、好かれたい人を明確に定義することが重要です。また、ブルーオーシャン(誰もいない市場)は比較対象がなく語りにくいため危険です。
理想は「みんなが興味を持っている分野で、圧倒的な勝者がいない領域」を狙うこと。ターゲット設定の段階で、勝敗の大半が決まります。
まとめ
ブランドプロデュースの本質は、共感を生み出し、ファンを獲得することで持続的な優位性を確立することです。
良いコンセプトは「時代を捉え、長く続き、内部の人が共感する」という3つの条件を満たします。2024年以降は特に「共感」の重要性が増し、本質的に誠実なブランドが選ばれる時代になっています。
ターゲットを明確にし、己・敵・マーケットを深く知った上で、約3ヶ月という集中した期間でブランドコンセプトを作り上げる。このプロセスを実践することで、勝てるブランドを構築できます。
日本には素晴らしい伝統と国民性があります。「誠実さ・優しさ・謙虚さ」という日本人のキャラクターを武器に、自信を持ってブランディングに取り組むことが、個人にとっても企業にとっても、そして日本全体にとっても重要です。

