石破政権が地方創生を最重要課題に掲げていますが、実は日本は1958年から66年間で100兆円近い予算を投じても成果が出ていません。
なぜ従来の政策は失敗し続けるのか?その本質は「計画経済的な発想」と「民間の実態を無視した設計」にあります。
本記事では、日本の地方創生が抱える3つの構造的問題を徹底分析し、「フランス型グランゼコール」「戦略的外国人材活用」「L4自動運転」という、実効性ある3つの解決策を解説します。
なぜ従来の地方創生政策は失敗し続けるのか
従来の地方創生政策は「計画経済的な発想」に基づいており、民間の実態を無視しているため、失敗し続けています。
石破政権が地方創生を最重要課題に掲げ、交付金の倍増を公約していますが、過去66年間で100兆円近い予算を投じても成果が出ていないのが現実。
問題の本質は、政策立案者が「綺麗な絵を描けば水が流れる」という計画経済的な発想から抜け出せていない点にあります。
日本の政策が機能しない3つの構造的問題
日本の地方創生政策には、以下の構造的な問題が存在します。
| 問題点 | 具体的な内容 | 結果 |
| トップダウン型の計画 | 中央政府が理論的に正しい政策を立案し、地方に押し付ける | 現場の実態と乖離した施策が量産される |
| グロテスクな私欲の無視 | 民間経済が持つ「汚い」利益追求のメカニズムを考慮しない | 企業や個人が動くインセンティブが設計されていない |
| 善意による無駄遣い | 政治家も官僚も本気で取り組んでいるが、方法論が間違っている | 批判されにくく、同じ失敗が繰り返される |
石破氏自身が地方創生大臣を2期務め、小泉氏も24年間政治に関わってきましたが、彼らの地元である鳥取県と横須賀市はともに人口減少が加速しています。
鳥取県は人口減少率が全国トップクラスで、横須賀市も神奈川県にありながら人口減少率1位を何度も記録している状況です。
欧米との決定的な違いは「インセンティブ設計」の欠如
欧米の政策は「人間の私欲を前提としたインセンティブ設計」に基づいており、日本とは根本的に発想が異なります。
フランスやドイツなどヨーロッパの国々は、エリート社会を基盤とした緊密なネットワークを持っています。たとえば、フランスではグランゼコール(※1)出身者が政界・経済界を牛耳っており、ドイツのDAX企業(※2)では社長の45%が博士号を保有しています。
※1:グランゼコール=フランスの超エリート教育機関。大学よりも格上とされ、政財界のトップはほぼ全員がこの出身者。
※2:DAX=ドイツ株価指数を構成する主要30社。日本の日経平均に相当。
彼らは国民を「同等の存在」とは考えず、政策を「飴付け」として設計します。つまり、人間の私欲を前提に「こちらに飴を置けばこちらに動くだろう」という計算で政策を立案するのです。
環境政策を例に取ると、その違いは明確です。
- 中国企業の排除:石炭火力を使う中国企業のプロジェクトを排除できる
- 日本企業の排除:ハイブリッド技術で進みすぎた日本企業も排除できる
- 自国企業の保護:遅れている欧米企業を再び立ち上げることができる
- 日本技術の封印:トヨタの水素技術など、圧倒的に優れた技術を封印できる
表面上は「環境保護」という綺麗な理念を掲げながら、実際には自国の産業保護と競合国の排除という「飴」を巧妙に配置しているのです。グレタ・トゥーンベリ氏のような活動家も、この戦略における「広告塔」として機能しています。
一方、日本は綺麗な理念を掲げて申請が難しい少額の補助金を出すだけで、企業や個人が動く仕組みを作れていません。
東京一極集中の異常性と地方創生の歴史的失敗
東京への一極集中は世界的に見ても異常なレベルであり、1958年から66年間にわたる地方創生政策はことごとく失敗しています。
データで見る東京一極集中の実態
年間収益10億ドル以上の企業本社数を見ると、東京は世界の主要都市を圧倒的に上回っています。さらに注目すべきは、日本国内で「地盤沈下が激しい」とされる大阪でさえ、世界4位の規模を持っているという事実です。
日本経済全体が縮小する中で、この一極集中はさらに加速しています。大阪から東京への本社移転は止まらず、名古屋と東京への人口集中も継続しています。
コロナ禍で一時的に地方移住の動きがありましたが、その後再び東京圏への流入が増加傾向です。
繰り返される政策の失敗パターン
1958年からの地方創生関連政策を時系列で見ると、以下のような変遷があります。
歴代の地方創生政策キーワード
- 新産業都市・工業特別整備地域(1960年代)
- 日本列島改造論(1970年代)
- テクノポリス構想(1980年代)
- リゾート法(1980年代)
- 産業クラスター(1990年代)
- 田園都市構想(2000年代)
- 地方創生(2010年代)
- デジタル田園都市構想(2020年代)
10年ごとに新しい名前が付けられていますが、基本的な発想は変わっていません。「立地条件の良い場所に資本と企業を集中させ、インフラを整備すれば大きな都市ができる」という考え方です。
実際のデータを見ると、政策を打った都市は最初だけ成長率がわずかに高まりますが、すぐに「出がらし」状態になり、長期的には逆効果になるケースも多いのです。
ベストプラクティス探しの罠
「成功事例のコピペ」は地方創生の最大の罠です。
政府は毎回「ベストプラクティス(※3)を探そう」として、「デジタル田園都市甲子園」のようなコンテストを開催します。そして、ある地域で成功したとされる事例を全国に横展開しようとします。
※3:ベストプラクティス=最良の事例や手法のこと。ビジネスや行政で「成功モデル」を指す用語。
島根県海士町は地方創生の成功事例として頻繁に取り上げられます。UIターン者(※4)を積極的に受け入れ、2,500人程度の人口のうち約1/4がUIターン者という驚異的な比率を実現しました。
※4:UIターン=Uターン(出身地に戻る)とIターン(縁のない地方に移住)を合わせた言葉。
しかし、実態を詳しく見ると以下の問題が浮かび上がります。
海士町の構造的問題
- UIターン者の多くは「準公務員」:地域おこし協力隊、集落支援員、財団職員など期限付きの給与が保証される仕事
- 期限が来ると多くの人が帰ってしまう:現在は転出超過に転じている
- 財政状況の悪化:島根県内で最も財政状態が悪化している
- 主要産業はビジネス視察:視察者向けのホテルが主な収入源となっている疑い
この「成功事例」をパッケージ化するコンサルタントが存在し、全国の自治体に同じモデルを販売しています。地方の行政担当者は悪気なく、上から降りてきた政策を必死に実行しているだけですが、結果として持続不可能な仕組みが全国に広がっているのです。
UIターン政策と広告業界の癒着構造
UIターン促進事業は、実効性よりも広告代理店への利益誘導の側面が強い施策です。
全国の自治体が制作するUIターン雑誌を見ると、有名タレントを起用した豪華な冊子が、年に数回発行されています。これらには国家予算が投入され、プロモーションビデオやイベントも付随します。
秋田県では市長が歌を歌うビデオ、宮崎県では蛯原友里氏を起用した冊子など、見た目は立派ですが効果は疑問です。これらは「ハイエナのような広告代理店」が群がる構造になっており、お金が落ちてくるから作り続けられているのです。
就職氷河期対策の助成金も同様の構造を持っており、実際に困っている人を助けるよりも、関連業界にお金を流すことが目的化しています。
フランス型地方創生モデル:「封じ込め」の戦略
フランスが一極集中を防いでいるのは、「地方に人を集める」のではなく「地方から人を出さない」仕組みを作っているからです。
日本の地方創生は「どうやって人を呼び込むか」に焦点を当てていますが、フランスは真逆の発想です。「どうやって出さないようにするか」という封じ込め戦略を、様々な「汚い手」を使って実現しています。
グランゼコールを使った人材囲い込みシステム
フランスには13の地域があり、各地域の人口は約500万人(日本の県レベル)です。この規模の地域に、それぞれグランゼコールが存在します。
フランスの地方人材囲い込みシステムの仕組み
| 要素 | 詳細 | 効果 |
| 見習い訓練税 | 企業は人件費の0.6%を国かグランゼコールに納付 | 企業が直接教育機関に資金提供できる |
| 寄付講座 | 企業が特定の講座に資金を出し、カリキュラムに関与 | 企業ニーズに合った人材を育成できる |
| インターンシップ | 1年間の実習が必須で、企業が給与を支払う | 学生は実質的に企業に「囲い込まれる」 |
| 学費支援 | 年間400万円の学費を企業が負担 | 優秀な学生を経済的に囲い込める |
| 月額給与 | 月10万円以上の給与を支給 | 学生は特定企業への就職がほぼ確定する |
グランゼコールは全国に180校以上存在し、大きな学校でも定員は300人程度の小規模です。各地域の商工会議所が運営しており、地元企業が資金を出す仕組みになっています。
地方の中小企業の後継者や、優秀だが経済的に余裕のない若者にとって、このシステムは非常に魅力的です。
- 地元のグランゼコールに入学:地元企業の支援を受けて学費が無料になる
- 企業での実習:1年間、給与をもらいながら実務経験を積む
- 深い関係性の構築:企業は学生の能力や人柄を1年かけて見極められる
- 事実上の就職確定:2年間その企業に関わった学生は、他社に行けなくなる
東京や他の地域に出ても、この密接な関係性を一から築くのは困難です。結果として、優秀な人材が地方に定着します。
地方エリートのネットワーク形成
グランゼコールは単なる教育機関ではなく、地方の経済ネットワークを構築する装置です。
地方のグランゼコールには、地元企業の2代目・3代目や、優秀な若者が集まります。彼らは学生時代に親密な関係を築き、卒業後も以下のようなネットワークを形成します。
- 取引関係の構築:「あの人から仕入れて、この人に売る」という商流が学生時代に形成される
- クローズドな仕組み:よそ者が入りにくい、地元企業同士の強固な関係
- 移動のデメリット:このネットワークから抜けると、一から関係構築が必要になる
- 裏切り者扱い:地域を出ていく者は「裏切り者」と見なされる可能性がある
さらに、グランゼコール間の交換留学制度があり、他地域との横のつながりも形成されます。また、3年コースを6年かけて修了するのが一般的で、その間に以下の経験を積みます。
- 他分野の学位取得(例:経済学専攻者が文学や歴史の学位も取得)
- 海外留学(アメリカやイギリスの大学への交換留学)
- 国内他地域の視察(同じシステムのグランゼコール間での交流)
企業も地域から出ていかない仕組み
フランスでは人材だけでなく、企業も地域から出ていかないインセンティブが設計されています。
企業が地域に根付く理由は、以下の通りです。
- 人材確保の確実性:地元のグランゼコールから毎年優秀な人材を確保できる
- 投資の回収:見習い訓練税を地元に投資すれば、確実にリターンが得られる
- ネットワークの維持:地域から出ると、構築したビジネスネットワークを失う
- コストの問題:パリなど大都市に移転すると、一から人材確保が必要になる
このように、フランスの地方創生は「飴」を巧妙に配置した「封じ込め」戦略なのです。
日本版グランゼコール構想:地方創生の切り札
日本の地方大学を小規模エリート校に再編し、フランス型の人材囲い込みシステムを構築すべきです。
日本の大学が抱える根本的問題
日本の大学、特に地方国立大学は以下の問題を抱えています。
日本とアメリカのエリート大学の規模比較
| 大学名 | 1学年の学生数 |
| ハーバード大学 | 約1,660人 |
| スタンフォード大学 | 約1,700人 |
| MIT | 約1,000人 |
| イェール大学 | 約1,300人 |
| プリンストン大学 | 約1,300人 |
| 上記5大学合計 | 約6,960人 |
| 早稲田大学 | 約11,000人 |
| 慶應義塾大学 | 約6,000人 |
早稲田大学は単独で、アメリカのトップ5大学の合計の約1.5倍の学生を抱えています。地方国立大学も1学年1,000〜1,500人規模が一般的で、マンモス化による以下の問題が生じています。
- 質の低下:定員を埋めるため、入学基準が下がる
- 地元への貢献不足:卒業後、多くの学生が東京などの大都市に流出
- 企業との連携不足:学生数が多すぎて、企業との密接な関係を築けない
日本版グランゼコールの具体的設計
地方国立大学に定員50〜150名の超少数精鋭コースを新設すべきです。
基本設計
- 定員:50〜150名(地域の規模に応じて調整)
- 選抜方法:1週間程度の総合試験(学力・体力・人格を評価)
- 学費:地元企業の寄付により実質無料化
- 給与:月額10万円以上を企業が支給
- 実習:1年間以上の企業実習を必須化
入学者の構成
- 地元のトップ層(定員の約1/3):県内の優秀な高校生から選抜
- 地元企業の後継者(定員の約1/3):2代目・3代目など事業承継予定者
- 近隣県からの学生(定員の約1/3):広域での人材交流を促進
地元企業側のメリット
- 優秀な若手人材を早期に確保できる
- 学生の能力や人格を長期間かけて見極められる
- 実習を通じて即戦力として育成できる
- 他社に取られるリスクが低い
- 税制優遇措置を受けられる可能性
学生側のメリット
- 学費が実質無料になる
- 給与を得ながら学べる
- 地元で良い就職先が確保される
- 海外・国内の交流プログラムに参加できる
- 東京の大学に行くより確実なキャリアパスが得られる
なぜ地方大学でなく新設コースなのか
既存の地方大学全体を改革するのではなく、超少数精鋭の新コースを作る方が現実的です。
地方国立大学の定員1,500名のうち、わずか50〜150名を特別コースにするだけです。この規模なら、以下のメリットがあります。
- 既存の大学運営への影響が小さい:大学全体の改革は不要
- エリート教育への批判をかわせる:全体の10%程度なら「機会の平等」は保たれる
- 地元企業の負担が現実的:県内の主要企業で分担すれば、1社あたりの負担は小さい
- 成果が見えやすい:少人数なので、成功・失敗の評価がしやすい
地方国立大学は、そもそもそれほど難関校ではありません。その中に少数の特別枠があっても、「慶應のAO入試みたいなもの」として社会的に受け入れられる可能性が高いのです。
教育無償化との決定的な違い
現在議論されている「教育無償化」は、大学のマンモス化を加速させ、質の低下を招くだけです。
ヨーロッパの事例を見ると、大学が無償または低額な国は多いですが、大学進学率はフランスもドイツも約50%程度です。なぜなら、以下の仕組みがあるからです。
- バカロレア(フランス)やアビトゥア(ドイツ):大学入学資格を得るための難関試験
- 明確な区別:大学に行く資格がない人は、最初から行けない仕組み
- 職業訓練の充実:大学に行かない人向けの、質の高い職業教育ルートが確立
一方、日本の教育無償化は「誰でも大学に行けるようにする」という発想です。結果として、以下の問題が生じます。
- 大学が さらに大規模化し、教育の質が低下する
- 本来大学に向いていない学生も入学し、中退や学力不足が増える
- 企業にとって有益な人材を育成できない
- 私立大学が儲かるだけで、地方創生には寄与しない
グランゼコール型のシステムは、「選ばれた優秀な学生」に徹底的に投資する仕組みであり、教育無償化とは根本的に異なります。
産業クラスター成功の鍵:ネクサスによる「絡め取り」
企業を地域に定着させるには、技術・人材・取引関係で「絡め取る」ネットワーク(ネクサス)の構築が不可欠です。
京都と名古屋に学ぶ「意地悪」の効用
日本で産業クラスターとして成功している地域は、京都と名古屋だけです。両地域に共通するのは、以下の特徴です。
- 技術的・商流的な相互依存関係:地域内で完結するサプライチェーンの存在
- 排他性:よそ者を簡単には受け入れない文化
- 制裁措置:地域から出ようとする企業への圧力
オムロンの東京進出失敗事例
京都の「意地悪さ」を象徴する事例があります。
オムロンは東京に日本本社を設置し、徐々に事業を移転しようとしました。しかし、京都の弱電部品メーカー(オムロンの主要サプライヤー)は、以下の対応を取りました。
- 取引の停止:「東京に行くなら部品を売らない」と通告
- 商工会議所からの締め出し:ビジネスネットワークへのアクセスを遮断
- 圧力の継続:オムロンが頭を下げて京都に研究所を新設するまで続けた
結果、オムロンは「もう二度と東京に行きません」と約束させられ、京都に留まることになりました。
名古屋の排他性
名古屋も「排他的」と言われますが、それが産業クラスターの維持に機能しています。トヨタ関連の自動車産業では、以下の構造があります。
- 技術の集積:自動車関連の技術がすべて愛知県に集中
- 商流の完結:部品調達から組み立てまで、地域内で完結
- 移転のデメリット:愛知県から出ると、このエコシステムから外れる
このような「出ていったら損をする」仕組みこそが、企業を地域に定着させる本質的な方法なのです。
九州における産業クラスター構築の可能性
九州(特に唐津市周辺)は、産業クラスター形成の条件が整っています。
唐津市の強みは、以下の通りです。
- 地理的優位性:アジア市場に近く、生産拠点としての引き合いが多い
- 大企業の進出:TSMCなど大手企業の工場が次々と建設されている
- 技術基盤の存在:石炭化学工業の伝統から、化学系の技術基盤が強い
- 大学の協力体制:精密機器や検査機器の研究開発で、大学施設を企業に開放
しかし、現状では優秀な若者や成長企業が東京に流出しています。
九州から流出した大企業の例
熊本や九州から東京・大阪に流出した企業は数多くあります。
- チッソ(現JNC)
- 朝日火災海上保険
- 赤水化学
- 新越化学(実は九州発祥)
- ゼンリン
- ホンダのー部門
- ゼンリンホールディングス
福岡周辺からも多くの企業が流出しています。
- ブリヂストン
- 井筒石油
- 三井鉱山
- 第一交通産業
- デンカ
- ホテルオークラ
- ヤクルト
これらの企業を地元に残しておけば、九州の経済規模は大きく異なっていたはずです。
大阪と福岡の失敗:「開放性」の罠
大阪と福岡は「商人の都市」として開放的すぎたため、企業流出を防げませんでした。
大阪は20年前まで総合商社が2社(住友商事、丸紅)あり、メガバンクも4行(りそな、三井住友、UFJ、みずほの前身)ありました。しかし、すべて東京に移転しました。
一方、京都は隣接しているにもかかわらず、企業を一社も流出させていません。この違いは、以下の文化的差異から生まれています。
| 特徴 | 大阪・福岡 | 京都・名古屋 |
| 性格 | 開放的、誰でもウェルカム | 排他的、よそ者に厳しい |
| ビジネススタイル | プラットフォーム型 | クローズド型 |
| よそ者への対応 | 歓迎する | 「田舎者」として見下す |
| 離脱への対応 | 比較的寛容 | 「裏切り者」として制裁 |
開放的であることは一見良いことですが、企業や人材を「絡め取る」力が弱くなります。
ネクサス構築の3つの柱
地域に企業を定着させるネクサス(網の目)は、以下の3要素で構成されます。
(1)産業構造による囲い込み
技術や商流で抜けられない状況を作ります。
- サプライチェーンの地域内完結
- 技術の相互依存関係
- 移転コストの高さ(一から関係構築が必要になる)
(2)人的ネットワークによる囲い込み
グランゼコールのような人材育成システムで、地元エリートの強固なネットワークを形成します。
- 学生時代からの深い人間関係
- ビジネス上の信頼関係
- 「仲間」としての帰属意識
(3)制裁措置による抑止
地域から出ようとする企業に対して、明確なデメリットを課します。
- 取引関係の停止
- 商工会議所などからの締め出し
- 残存事業所への圧力
この3つを組み合わせることで、企業は「出ていくよりも残った方が得」と判断するようになります。
外国人材による地方活性化戦略
地方こそ、戦略的に外国人材を活用し、新たな産業エコシステムを構築すべきです。
日本の「人気」は実は高い
「日本は円安で外国人労働者に人気がない」という認識は間違いです。
確かに、欧米と比較すると見かけ上の給与は約6割程度です。しかし、アジアの途上国から見ると、依然として日本の魅力は高いのです。
日本と他国の給与比較(途上国の平均的労働者基準)
| 比較対象 | 日本の給与水準 |
| 中国(一般労働者) | 約3倍 |
| 中国(エッセンシャルワーカー) | 約7倍 |
| インドネシア・ベトナム | 約9倍 |
| アメリカ | 約15倍(ただしビザ取得が困難) |
アメリカの15倍には及びませんが、9倍でも十分に魅力的です。しかも、アメリカはビザ取得が非常に困難である一方、日本は技能実習や特定技能などの制度があります。
さらに、OECD諸国で日本より給与が高い国の多くは人口が少なく、労働需要も限定的です。
- フランス、ドイツ、イギリス、イタリア:日本の半分程度の人口
- 北欧諸国:東京都や埼玉県程度の人口規模
- ルクセンブルク:世田谷区程度の人口(約60万人)
ヨーロッパには「シェンゲン協定(※5)」があり、EU域内の移動が自由なため、東欧諸国(ハンガリー、ルーマニアなど)からの労働者で需要が満たされています。
※5:シェンゲン協定=ヨーロッパの国々間で、国境検査なしで移動できるようにした協定。EU加盟国のほとんどが参加。
また、フランスやイギリスは旧植民地からの移民が多く、アジア人材をあえて集める必要がないのです。
戦略的な外国人材活用の3ステップ
外国人材を単なる「労働力」ではなく、「地域活性化の核」として位置づけるべきです。
ステップ1:専門学校を海外に設立
特定の国に、技能実習や特定技能の資格取得のための専門学校を設立します。
すでに一部の企業は、戦略的にこれを実施しています。たとえば、カーコンビニクラブは以下のシステムを構築しています。
- タイに自動車板金の専門学校を設立
- 日本語教育も含めて、7万〜10万円程度の学費で提供
- 実質的に非営利組織として運営(企業は1円も出さない)
- 人柄が良く、能力の高い学生だけを選抜して日本に招く
この仕組みのメリットは、以下の通りです。
企業側のメリット
- 能力と人柄を事前に見極められる
- 日本語がある程度話せる状態で受け入れられる
- 競合他社に取られるリスクが低い
学生側のメリット
- 安価で技能と日本語を学べる
- 日本での就労機会が得られる
- 帰国後も母国で活躍できる技能が身につく
各県が「うちはこの国に専門学校を作る」という戦略を立て、計画的に人材を呼び込むべきです。
ステップ2:「〇〇人街」の形成
特定国出身者を計画的に集め、その国の文化が体験できる「〇〇人街」を作ります。
横浜中華街のように、特定民族のコミュニティは大きな観光資源になります。
〇〇人街形成の戦略
- 特定国からの労働者を計画的に集める
- その国の料理店や商店が自然に増える
- 観光資源としてブランド化する
- その国からの観光客が増加する(言葉が通じるので安心)
- さらに労働者や観光客が増える(好循環)
ステップ3:家族の招待と観光促進
働いている外国人材の家族を、定期的に無料で日本に招待します。
商工会議所などが資金を出し、2年に1回程度、航空券だけを負担して家族を招待するのです。効果は、以下の通りです。
- 労働者のモチベーション向上:家族に日本を見せられる喜び
- 母国での日本ブランド向上:「息子が働いている良い国」という評判
- 観光客の増加:家族が友人を連れて再訪する
- 言葉の壁の解消:働いている人が通訳として機能する
この戦略は、大分県の立命館アジア太平洋大学(APU)が実証済みです。
APUによる別府市活性化の実例
- 学生6,000人のうち約2,000人が外国人(主にアジア)
- 韓国・中国の学生がファミリーレストラン、焼肉店、温泉で働く
- 入学式・卒業式に親が訪れ、別府の観光をする
- 「言葉が通じる街」として韓国・中国でブランド化
- 韓国語・中国語が通じるコンビニ、旅館、レストランが増加
APUのおかげで、別府は韓国・中国からの観光客が増加しました。この成功モデルを、計画的に各地方で再現すべきです。
育成就労制度を活用した「エリート外国人」の創出
優秀な外国人労働者を、短大・専門学校に進学させ、永住権を付与する制度を作るべきです。
現在の制度では、育成就労で3年、その後特定技能で最長5年、合計8年間日本で働けます。8年働いた外国人の中には、日本語が堪能で、非常に優秀な人材がいます。
この上位10〜20%を、以下のルートでさらに育成すべきです。
エリート外国人育成ルート
- 8年間の就労:育成就労3年+特定技能5年で日本語と技能を習得
- 短大・専門学校への進学:企業が学費を全額負担(定員割れで困っている学校を活用)
- 週28時間の就労:留学生は週28時間の就労が認められており、企業はこれを活用
- 夏休み・冬休みのフルタイム勤務:最大40時間まで働けるため、企業も学生も助かる
- 卒業後に永住権付与:短大・専門学校を卒業すれば、特定技能2号相当の永住権を付与
このシステムのメリットは、以下の通りです。
企業側のメリット
- 8年間働いた優秀な人材を、さらに2年間囲い込める
- 専門学校在学中も週28時間働いてもらえる
- 永住権を持つ人材として、長期雇用が可能になる
外国人側のメリット
- 学費無料で短大・専門学校に進学できる
- 給与を得ながら学べる
- 永住権を取得でき、家族も呼び寄せられる
- 「ジャパニーズドリーム」を実現できる
日本社会のメリット
- 定員割れで経営難の短大・専門学校を救済できる
- 優秀な外国人材が定着する
- 「外国人に優しい国」としてブランドが向上する
移民への警戒感をどう解くか
「外国人が増えると治安が悪化する」という懸念は、戦略的コミュニケーションで解消できます。
農業・水産業・林業は、すでに外国人材なしでは成り立ちません。2019年に特定技能制度が創設され、当初は永住権付与に厳しい制限がありましたが、徐々に緩和されてきています。
地方こそ、外国人材を必要としています。選挙でこの話題が避けられてきましたが、もはや表で議論すべき時期です。
警戒感を解くためのポイント
- 「儲かる話」として提示する:人道的な話ではなく、経済合理性を前面に出す
- 成功事例を示す:APUのような具体例で、メリットを可視化する
- 段階的な導入:いきなり大規模に受け入れるのではなく、特定国から少しずつ始める
- 地元企業の主導:行政主導ではなく、地元企業が「自分たちのため」に動く形にする
外国人材の活用は、人手不足の解消だけでなく、観光振興、産業活性化、そして「多様性のある魅力的な地域」の創出につながります。
徴農制による国土保全と地方活性化
憲法を改正し、20〜60歳の国民に農業・介護・看護の義務を課す「徴農制」を導入すべきです。この提案は極めて大胆ですが、以下の社会課題を同時に解決できる可能性があります。
なぜ中山間地農業は儲からないのか
日本の農業が高コスト体質なのは、中山間地の小規模農業が集約できないからです。
平野部の農業は大規模化・機械化が可能で、生産性を上げられます。しかし、中山間地(※6)は以下の問題を抱えています。
※6:中山間地=山地と平地の間の傾斜地帯。農業には不利な条件だが、日本の農地の多くがこの地域にある。
- 小さな飛び地が点在し、集約が困難
- 山がちな地形で、大型機械が使えない
- 零細経営の高齢農家が多く、後継者がいない
- この部分が日本の農作物価格を高くしている
補助金で支援しようとしても、WTO(※7)ルールで「不当な補助金」と見なされ、関税をかけられるリスクがあります。
※7:WTO=世界貿易機関。国際的な貿易ルールを定め、不公正な取引を監視する組織。
国土保全としての農業
中山間地農業を「農業」ではなく「国土保全事業」と位置づければ、補助金がWTOに抵触しにくくなります。
農地を適切に管理することで、以下の公益的機能があります。
- 保水機能の維持:田畑がダムの役割を果たし、洪水を防ぐ
- 土砂災害の防止:耕作することで、山崩れのリスクが下がる
- 生態系の保全:里山の環境を維持することで、生物多様性が保たれる
これらは「国土保全」「環境保全」として正当化でき、WTOルールに抵触しにくいのです。そして、国土保全のために「人材も用意する」という形で、徴農制を導入します。
徴農制の具体的設計
20歳までに1年、40歳までに半年、60歳までに半年、合計2年間の農業従事を義務化します。
| 年齢 | 期間 | 目的 |
| 20歳まで | 1年間 | 若いうちに肉体労働と地方を経験 |
| 40歳まで | 半年間 | キャリアの転換期にリフレッシュ |
| 60歳まで | 半年間 | 定年前後の新たな選択肢を探る |
この設計には、以下のメリットがあります。
若者だけでなく全世代に分散される
- 「若者の使い捨て」という批判を回避できる
- 60歳までに3回あるので、ライフステージに合わせて選択できる
サバティカル(※8)としての機能
- 育児休暇や介護休暇と同様に、「人生の休息期間」として位置づけられる
- 40歳前後でキャリアを見直したい人にとって、良い機会になる
- 60歳前後で地方移住や農業を考えている人の「お試し期間」になる
※8:サバティカル=長期の有給休暇制度。主に研究職などで、数ヶ月〜1年程度の自己研鑽期間として認められている。
地域選択による柔軟性
- 親が地方にいる人:親の介護と組み合わせて、地元で農業従事できる
- 地方移住を考えている人:半年間の「お試し移住」として活用できる
- 東京に残りたい人:農業ではなく、介護や看護などの選択肢を用意
生産性向上のための管理システム
徴農制の人材を活用するには、農業の管理システムも近代化する必要があります。
現在の地方創生では「特産品を作れ」と言われますが、特産品は少量しか取れず、儲かりません。むしろ、以下の戦略が有効です。
戦略1:日常消費野菜の地産地消
- キャベツ、大根、ニンジンなど、毎日消費される野菜を生産
- 現状では高知県など遠方から輸送されているが、輸送コストが高い
- 地元で生産し、地元のスーパーで販売すれば、新鮮で安価
戦略2:計画的な作付け管理
- 徴農制の人材がどこに何人配置されるか分かるので、計画的に作付けできる
- 特産品は少量生産に留め、主力は日常野菜にする
- 地域の商工会議所などが農業管理をコーディネートする
戦略3:徴農制人材の配置最適化
- 1学年100万人のうち、半分が徴農制に参加すると50万人
- 中山間地の農家は100万軒もないので、1軒に1人配置できる
- 高齢農家の作業を大幅に軽減できる
憲法改正の必要性
徴農制を実現するには、日本国憲法第18条と第22条の改正が必要です。
- 第18条:「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」→徴兵や徴用を禁止
- 第22条:「居住、移転及び職業選択の自由」→徴農制は職業選択の自由を制限
憲法改正の議論では、第9条(戦争放棄・自衛隊)ばかりが注目されますが、第18条と第22条の改正も同様に重要です。
さらに、第43条(選挙権と被選挙権の年齢)も議論されるべきです。少子高齢化が進む中で、世代間の政治的バランスを保つ仕組みが必要だからです。
徴兵制ではなく、徴農制という形で議論すれば、左派からの反発も「あなたたちは徴兵制したいんでしょ?」という批判に対し、「いや、これは国土保全と地方活性化のための農業です」と反論できます。
夢のある憲法改正の議論として、ぜひ石破政権や小泉議員には、自衛隊の話だけでなく、この第18条・第22条の改正も提案してほしいものです。
レベル4自動運転が変える地方の未来
L4(レベル4)自動運転技術は、「駅前」「コンパクトシティ」の概念を不要にし、地方を劇的に変える可能性があります。
コンパクトシティ政策の限界
現在、多くの地方都市が「コンパクトシティ(※9)」政策を推進しています。人口減少に対応するため、中心市街地に居住や商業機能を集約しようとする試みです。
※9:コンパクトシティ=人口減少社会に対応するため、都市機能を中心部に集約し、公共交通でアクセスできるようにする都市計画の考え方。
しかし、この政策には以下の問題があります。
- 莫大な再配置コスト:既存のインフラや住宅を再配置するのに、膨大な費用と時間がかかる
- 住民の抵抗:郊外に住む人々を強制的に移住させることは困難
- 結局は東京の劣化コピー:小さな「駅前開発」を作るだけで、魅力に乏しい
L4自動運転が普及すれば、そもそも「コンパクトにする」必要がなくなります。
L4自動運転がもたらす3段階の変革
L4自動運転の普及は、3段階で地方の生活を劇的に変えます。
第1段階:巡回型無料コミュニティバス
決まったルートを無人バスが巡回し、誰でも無料で乗れるシステムです。
現在、100近い自治体がL4実証実験に参加していますが、ほとんどが「空港内の巡回」「公園内の移動」「廃線跡の軌道バス」など、意味のない用途に留まっています。
本来やるべきは、以下のような「巡回ビジネス」です。
巡回ビジネスの例
- 移動コンビニ:ローソンやセブンイレブンのバスが、決まった時間に公民館や公園に来る
- 移動カフェ:スターバックスやバスキンロビンスが巡回し、住民が集まって交流できる
- 移動ATM:銀行のATMバスが巡回し、現金引き出しや振込ができる
- 移動配送ステーション:佐川急便やヤマト運輸のバスが荷物を運び、住民が取りに来る
地方にはインフラ(公民館、公園など)が豊富にあります。そこに「移動店舗」が定期的に来れば、住民は自宅近くで買い物や交流ができます。
ローソンとKDDIがすでにこの方向で動いており、成功すれば他企業も追随するでしょう。
第2段階:オンデマンド型タクシー
スマホで呼ぶと、最も近くにある車が迎えに来て、圏内のどこにでも行けるシステムです。第1段階の巡回バスが成功したら、次は「好きな時間に、好きな場所に行ける」仕組みに進化します。
オンデマンド型の特徴
- スマホアプリで配車を依頼
- AI が最適な車両を割り当て
- 圏内であれば、ほぼ無料(または格安)
- 高齢者も簡単に使える(音声対応など)
これが実現すると、以下の変化が起きます。
- 駅前に住む必要がなくなる:電車に乗るために駅近に住む理由が消える
- 駐車場が不要になる:自家用車を持たなくても、どこにでも行ける
- 飲酒運転の心配がなくなる:居酒屋で飲んでも、自動運転車が迎えに来る
- 高齢者の移動手段確保:免許返納後も、自由に移動できる
第3段階:ライドシェア型自動運転
地域内のあらゆる車が、自動運転でシェアされるシステムです。
最終段階では、個人所有の車も含めて、使われていない車が自動的に配車されます。
ライドシェア型の特徴
- 個人の車も、使っていない時間は自動的に「シェアカー」になる
- 車の所有者は、使用料の一部を受け取れる
- AIが需要と供給を最適化し、常に近くに車がある状態を維持
- 所有車が減り、駐車スペースも大幅に削減される
この段階まで来ると、以下のような社会変化が起きます。
社会変化の例
- 「駅前」の概念が消滅:どこに住んでも、駅までの移動が楽になる
- 「コンパクトシティ」が不要に:分散して住んでいても、移動コストがほぼゼロ
- 地価の概念が変わる:「駅から徒歩○分」という価値基準が意味を失う
- 郊外の広い家が有利に:都市部の狭いマンションより、郊外の一戸建ての方が快適
地方こそL4導入が有利な理由
L4自動運転は、交通量が少なく、道路が単純な地方の方が導入しやすい技術です。
東京でL4を実現するのは非常に困難です。なぜなら、以下の理由があるからです。
- 交通量が多すぎる:複雑な交通状況に対応するAIの精度が必要
- 歩行者が多い:予測不可能な人の動きに対応しなければならない
- 規制が厳しい:事故が起きた時の社会的影響が大きいため、許可が下りにくい
一方、地方では以下の有利な条件があります。
| 要素 | 地方の状況 | L4導入への影響 |
| 交通量 | 少ない | AIが対応しやすい |
| 歩行者 | 少ない | 事故リスクが低い |
| 道路構造 | シンプル | 自動運転の精度が低くても実用化できる |
| 住民の期待 | 移動手段に困っている | 社会的受容性が高い |
| 規制当局 | 地方自治体 | 実証実験の許可が下りやすい |
愛知県や広島県など、自動車産業が盛んな地域こそ、積極的にL4実証を進めるべきです。
高速道路のL4化と「距離の消滅」
高速道路は最もL4化しやすい環境であり、ここが自動化されれば「距離」の概念が変わります。
高速道路には信号も歩行者もなく、L4技術の導入が最も容易です。以下のシステムが実現可能です。
高速道路L4の特徴
- 路肩まで走行可能な自動運転バスが巡回
- 渋滞がなくなる(AIが最適な速度と車間距離を制御)
- 100km/hで巡航し、200km圏内なら2時間で到着
- ほぼ無料、または格安で利用できる
これが実現すると、大都市から200km圏内は「通勤圏」になります。
200km圏の例
- 東京から:静岡、新潟、福島、栃木、群馬、山梨、長野の一部
- 名古屋から:岐阜、三重、静岡、長野、滋賀、福井
- 大阪から:京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀、福井、岡山の一部
- 仙台から:宮城、福島、山形、岩手の一部
200km圏内が実質的に「同じ生活圏」になれば、地方の家(広くて安い)に住みながら、都市部に通勤することも可能になります。
かつて民主党政権時代に山崎養世氏が提唱した「高速道路無料化」は、まさにこのビジョンを持っていました。高速が無料になれば距離の概念がなくなり、工場や物流拠点が地方に分散するという発想です。L4自動運転は、その発展型と言えます。
L4が実現する理想の地方像
L4が普及した地方は、以下のような社会になります。
- 住宅:広くて安い家に住める
- 土地:地価が安く、庭や駐車場も広く取れる
- 環境:自然が豊かで、空気も綺麗
- 教育:子どもが のびのび育つ環境
- 移動:どこにでも、ほぼ無料で行ける
- 買い物:移動店舗が巡回してくるので、買い物に困らない
- 交流:公民館や公園で、定期的に人が集まる仕組みができる
- 通勤:200km圏内なら、都市部への通勤も可能
- 娯楽:飲食店に行くのも、自動運転で送迎されるので、お酒も飲める
このビジョンを明確に打ち出し、「L4特区」のような形で先進的に取り組む自治体が現れれば、人口が流入し、地価も上昇するはずです。
今すぐ実行すべき地方創生の優先順位
3つの施策のうち、最も実現可能性が高いのは「グランゼコール型教育機関の創設」です。
優先順位1:地方大学にグランゼコール型コースを新設
まずは1〜2の自治体で、グランゼコール型の超少数精鋭コースを試験的に始めるべきです。この施策が最優先である理由は、以下の通りです。
- 比較的少額の予算で始められる:既存の大学に少人数コースを追加するだけ
- 地元企業の協力が得やすい:企業にとって明確なメリットがある
- 成果が見えやすい:50〜150人程度なので、追跡調査が容易
- 失敗しても影響が小さい:大学全体の改革ではないので、リスクが限定的
具体的なステップ
- モデル県を1〜2選定:例えば福岡県(九州大学)、広島県(広島大学)など
- 地元商工会議所と連携:企業から資金と実習先を確保
- 定員50〜150名でスタート:小規模から始めて、成功したら拡大
- 5年後に成果を評価:卒業生の就職先、地元定着率、企業満足度を測定
- 成功したら全国展開:他の地方国立大学にも同様のコースを設置
優先順位2:外国人材の戦略的活用
特定国に専門学校を設立し、計画的に人材を呼び込む仕組みを作ります。この施策は、以下の点で実現可能性があります。
- 企業が自主的に動き始めている:カーコンビニクラブのような先行事例がある
- 行政の役割は調整と支援:直接運営する必要はなく、企業を支援すれば良い
- 段階的に拡大できる:最初は1県1国から始め、成功したら拡大
具体的なステップ
- ターゲット国を選定:ベトナム、インドネシア、フィリピンなど
- 企業コンソーシアムを形成:複数企業で資金と運営を分担
- 現地に専門学校を設立:日本語+技能を教える
- 優秀な学生を選抜:能力と人柄を見極めて、日本に招く
- 〇〇人街を形成:計画的に特定地域に集め、観光資源化
優先順位3:L4自動運転の本格導入
L4は技術的・規制的ハードルが高いため、長期戦略として位置づけます。ただし、以下の点で準備を始めるべきです。
- 意味のある実証実験:空港内ではなく、実際の生活圏での実証
- 巡回ビジネスの実験:ローソンやスターバックスと連携した移動店舗
- 規制緩和の要望:国に対して、地方での規制緩和を強く求める
- ビジョンの明確化:「L4で地方が変わる」というストーリーを住民に示す
地方創生に関してよくある質問
Q1:なぜ日本の地方創生政策は66年間も失敗し続けている?
日本の地方創生政策が失敗し続ける最大の理由は、「計画経済的な発想」に基づいているからです。政府は理論的に正しい政策を立案し、綺麗な理念を掲げますが、企業や個人が実際に動くインセンティブを設計していません。
欧米の政策は「人間の私欲を前提としたインセンティブ設計」に基づいており、日本とは根本的に発想が異なります。さらに、成功事例のコピペやベストプラクティス探しに陥り、地域の実態に合わない施策が量産されています。
1958年から現在まで、新産業都市構想、日本列島改造論、テクノポリス、リゾート法、産業クラスター、デジタル田園都市構想と名前を変えてきましたが、基本的な発想は変わっていないため、同じ失敗が繰り返されているのです。
Q2:フランスが一極集中を防げている「封じ込め戦略」とは?
フランスの地方創生は、日本のように「どうやって人を呼び込むか」ではなく、「どうやって地方から人を出さないようにするか」という逆転の発想に基づいています。その核となるのが、グランゼコールという超エリート教育機関です。
各地域にグランゼコールがあり、地元企業が見習い訓練税や寄付講座を通じて資金を提供し、学生は1年間の企業実習を経て給与を得ながら学びます。企業は学費(年間約400万円)を負担し、優秀な学生を経済的に囲い込みます。この仕組みにより、学生は地元企業との深い関係性を構築し、卒業後も地域に定着します。
企業側も地元のグランゼコールから毎年優秀な人材を確保できるため、地域を出るメリットがありません。この「人材・技術・取引関係で絡め取る」ネクサス(網の目)構造が、フランスの地方を活性化させているのです。
Q3:日本版グランゼコール構想とはどのような仕組み?
日本版グランゼコール構想とは、地方国立大学に定員50〜150名の超少数精鋭コースを新設し、フランス型の人材囲い込みシステムを構築するものです。具体的には、地元企業の寄付により学費を実質無料化し、学生には月額10万円以上の給与を支給します。
1年間以上の企業実習を必須化し、学生の能力や人格を長期間かけて見極められる仕組みです。入学者は地元のトップ層、地元企業の後継者、近隣県からの学生で構成され、学生時代に親密なビジネスネットワークを形成します。
企業側は優秀な若手人材を早期に確保でき、税制優遇も受けられます。学生側は学費無料で給与を得ながら学べ、地元で確実なキャリアパスが得られます。既存大学の定員1,500名のうちわずか50〜150名を特別コースにするだけなので、現実的に実現可能です。
Q4:地方における外国人材活用の戦略とは何?
地方における外国人材活用戦略は、単なる労働力確保ではなく、「地域活性化の核」として位置づける3ステップの仕組みです。
第1ステップは特定国(ベトナム、インドネシアなど)に専門学校を設立し、技能と日本語を教えて優秀な人材を選抜。第2ステップは計画的に特定地域に集め、その国の料理店や商店が増える「○○人街」を形成し、観光資源化。第3ステップは働いている外国人の家族を定期的に無料で招待し、母国での日本ブランドを向上させます。
この戦略が効果的な理由は、労働者のモチベーション向上、観光客の増加、言葉が通じる街としてのブランド化が同時に実現するからです。さらに、8年働いた優秀な外国人を短大・専門学校に進学させ永住権を付与する制度を組み合わせれば、地域に定着する高度人材を育成できます。
Q5:レベル4自動運転は地方創生にどのような影響を与える?
レベル4自動運転技術は、「駅前」「コンパクトシティ」の概念を不要にし、地方を劇的に変える可能性があります。L4の普及は3段階で進みます。
第1段階は巡回型無料コミュニティバスで、移動コンビニ、移動カフェ、移動ATMなどが決まったルートを巡回。第2段階はオンデマンド型タクシーで、スマホで呼ぶと最も近くの車が迎えに来て、圏内のどこにでもほぼ無料で行けます。第3段階はライドシェア型で、個人所有の車も含めて使われていない車が自動的に配車されます。
これにより、駅前に住む必要がなくなり、郊外の広くて安い家に住みながら自由に移動可能です。さらに、高速道路のL4化が実現すれば、200km圏内が実質的に「通勤圏」となり、地方の家に住みながら都市部に通勤することも可能になります。L4は交通量が少なく道路が単純な地方の方が導入しやすく、地方こそ先行して実用化すべき技術なのです。
まとめ:地方創生成功の鍵は「グロテスクな私欲」の理解
地方創生を成功させるには、「綺麗な理念」ではなく「人間の私欲を動かす仕組み」を設計する必要があります。
従来の失敗パターンからの脱却
過去66年間、100兆円近い予算を使っても地方創生が成功しなかったのは、以下の理由があります。
- 計画経済的発想:「綺麗な絵を描けば実現する」という誤解
- 民間の動機の無視:企業や個人が動くインセンティブを設計していない
- ベストプラクティスのコピペ:成功事例の表面だけを真似て失敗
- 善意による無駄遣い:批判されにくいため、同じ失敗が繰り返される
成功のための3原則
原則1:インセンティブ設計
- 人間は私欲で動くことを前提にする
- 「出ていったら損」「残った方が得」という構造を作る
- 綺麗事ではなく、「儲かる」「有利」という言葉で説明する
原則2:ネクサス(網の目)の構築
- 技術・人材・取引関係で「絡め取る」
- 簡単には抜けられない、密接な関係性を作る
- 「意地悪」も含めて、出ていく企業に制裁を加える
原則3:海外の成功事例から学ぶ
- フランスのグランゼコール
- ドイツの職業訓練制度
- アメリカの少数精鋭エリート教育
- これらの「エグい部分」まで理解し、応用する
政治家・官僚・経営者への提言
現在の地方創生政策の最大の問題は、「誰も海外の仕組みを本気で勉強していない」ことです。
- 政治家:視察に行っても、表面的な視察で終わる
- 官僚:計画経済的な発想から抜け出せない
- 経営者:自社の利益しか考えず、地域全体を見ていない
石破政権が本気で地方創生を成功させたいなら、以下を実行すべきです。
- フランス・ドイツの制度を徹底研究:視察ではなく、制度の本質を学ぶ
- グランゼコール型教育機関を1〜2県で試験導入:小さく始めて成果を測定
- 外国人材戦略を明確化:「移民ではなく戦略的人材活用」として、正面から議論
- L4自動運転特区の設置:意味のある実証実験ができる環境を整備
- 憲法改正の議論開始:9条だけでなく、18条・22条も議論する
地方創生は「お金をばらまけば成功する」ものではありません。人間の私欲を理解し、「残った方が得」という構造を緻密に設計することが、唯一の成功への道なのです。

