地方創生を成功させるには、既存の名物を革新的にリブランディングし、冷凍生地などの仕組み化で人材不足を解消することが重要です。
本記事では、堀江貴文氏が実際に取り組む地方ビジネスの成功法則と課題解決策を、具体的な事例とともに解説します。
地方創生ビジネスの成功法則とは?
地方でビジネスを成功させるには、競争が少ない市場で「決定版」となる商品・サービスを作ることが鍵となります。
堀江氏は沖縄そばや帯広豚丼など、地域に既存の名物がありながら「圧倒的にうまい店」が存在しない分野に着目しています。これは、地方では名物として一定の集客が見込めるため、店側が努力せずとも経営が成り立ってしまうという構造的な問題があるためです。
一方、ラーメン業界のように競争が激しい分野では、各店が創意工夫を凝らし、飛び抜けた商品が生まれています。この競争原理を地方の名物に持ち込むことで、大きなビジネスチャンスが生まれるのです。
沖縄そばリブランディングの戦略
沖縄そばには一定のルール(小麦粉麺、カツオ出汁、ラフテイ、紅しょうが等)がありますが、これを守りつつ革新的なアレンジが可能です。
革新ポイント
- 豚骨スープとのダブルスープ化
- 出汁の濃度調整による味の深化
- トッピングの高級化
地方の名物は「来てくれるから努力しない」という悪循環に陥りがちですが、ここに本格的な競争原理を持ち込むことで、地域全体の魅力向上につながります。
帯広豚丼の革新事例
帯広の豚丼は、元々「ウナギを食べたいが北海道にはいない」という理由から、ウナギのタレで豚肉を食べる料理として誕生しました。
現状の課題
- どの店も肉が硬い
- 厚切りやトロトロ食感の店がない
- ウナギ重の本来の魅力が活かされていない
改善策
- 1cm厚のバラ肉をコトコト煮込み
- ほろほろの食感を実現
- タレをたっぷりかけた贅沢な盛り付け
このように、既存の名物の「当たり前」を疑い、本来あるべき姿を追求することで差別化が可能になります。
観光資源としての地方ブランディング戦略
地方観光を活性化させるには、その地域ならではの資源を最大限に活用した「専門店」や「体験型施設」の開発が効果的です。
安曇野わさび園の成功と課題
安曇野はわさびの一大産地として知られ、週末には国道が「わさび渋滞」になるほどの人気観光地です。
現状
- わさびソフトクリームなどの定番商品
- 観光客は訪れるがディスティネーション(目的地)としては弱い
改善の方向性
- わさびスイーツの多様化
- 家族で半日楽しめるアトラクション開発
- わさび栽培の歴史展示による教育的価値の付加
地方観光では「薄くても良い」という考え方が重要です。修学旅行生や家族連れが「ついつい立ち寄ってしまう」程度の魅力でも、地域ブランドがあれば十分に成立します。
淡路島玉ねぎ専門レストラン構想
堀江氏が計画する淡路島の玉ねぎ専門レストラン「玉ねぎの館」は、単一食材に特化した新しい観光モデルです。
コンセプトのポイント
- 世界初の玉ねぎ専門レストラン
- 淡路島産玉ねぎの多様な調理法を提供
- 地域ブランドと専門性の融合
※ディスティネーション:旅行や観光の最終目的地のこと。「そこに行くこと自体が目的」となる場所を指します。
パン屋FC事業に見る地方ビジネスの課題と解決策
地方でのFC(フランチャイズ)事業展開には、特有の人材・技術面での課題があります。堀江氏のパン屋事業は、この課題に対する明確な解決策を提示しています。
パン職人不足という構造的問題
団塊世代のパン職人が直面する課題
- 朝4時からの過酷な労働
- 生地をこねて発酵させる高度な技術が必要
- 1個150〜200円という低単価
- 家族経営でなければ採算が取れない
これらの理由から、団塊世代のパン職人が引退した後、後継者が見つからず廃業するケースが増加しています。
さらに、長年の小麦粉吸引によりグルテン不耐症になり、パン好きなのにパンが食べられなくなる職人も存在します。
冷凍生地による革命的解決策
堀江氏が導入した冷凍生地システムは、パン製造の最大の課題を解決します。
冷凍生地システムのメリット
| 項目 | 従来の方法 | 冷凍生地システム |
| 作業時間 | 3〜4時間 | 約1時間 |
| 必要スキル | 高度な専門技術 | 2週間程度の研修で習得可能 |
| 増産対応 | 困難(再度3〜4時間必要) | 在庫から取り出すだけ |
| パンの種類 | 30種類すべて別々に製造 | 冷凍ストックから選択可能 |
この仕組みにより、「カレーパンがめちゃくちゃ売れた」というような急な需要増加にも即座に対応できます。従来は1から作り直す必要があったため、機会損失が大きな問題でした。
地方の最大の課題:店長人材の確保
FC事業が地方で成功するかどうかは、優秀な店長人材を確保できるかに大きく依存します。
地方に人材がいない構造的理由
地方では向上心のある若者ほど都会に出てしまうため、店長候補となる人材が極端に少ない状況です。
実際に起きた事例
- 茨城県笠間市の店舗:全国1位の売上を記録していたが、店長が病気で退職し閉店
- 儲かっている店舗でも後継者がおらず廃業
この問題は、単に求人を出すだけでは解決できません。
子育て後の主婦層という隠れた人材
堀江氏が注目するのは、40〜50代の子育てを終えた主婦層です。
成功事例:ドムドムバーガー社長
- 大学卒業後すぐに結婚・出産
- 40歳で社会復帰し、渋谷109のアパレル店長に
- その後、新橋で居酒屋を開業し大繁盛
- 常連客の紹介でドムドムバーガーのメニュー開発に参加
- 最終的に社長に就任
この事例が示すのは、「本来ならば社会で活躍すべき人材が、旧来の価値観により専業主婦になっている」という現実です。
特に地方では、親が娘を東京に出したがらない傾向があり、優秀な女性が地元に残っているケースが多くあります。
地方の子育て後主婦が店長に向いている理由
- 人生経験が豊富
- コミュニケーション能力が高い
- 地域のネットワークを持っている
- 安定志向で長期勤務が期待できる
国の支援制度を活用した地方創生
地方創生には、国が用意する様々な支援制度を戦略的に活用することが重要です。
ふるさと納税の本質は「地方分権の実現」
ふるさと納税は、単なる返礼品制度ではありません。菅元総務大臣が創設したこの制度の本質は、国家権力の最大の源である徴税権の地方分権にあります。
ふるさと納税が革命的な理由
- 個人や法人が納税先を選べる
- 競争原理が働き、自治体の創意工夫を促す
- 営業力のある自治体は年間150億円以上を集める
具体例
北海道のある自治体は、本来の徴税収入が約8億円であるにもかかわらず、ふるさと納税で150億円を集めています。これは地方交付税交付金が不要になるレベルの金額であり、真の意味での地方分権が実現しているといえます。
地域おこし協力隊制度の活用法
地域おこし協力隊は、地方創生において極めて強力な制度です。
制度の概要
- 人数無制限(理論上は1万人でも可能)
- 国から3年間、1人あたり年間300万円の支援
- 自治体の職員として採用され、選ばれた企業等に出向
成功事例:岩手県遠野市
元リクルート社員が地域おこし協力隊制度を活用し、ビール醸造所「遠野醸造」を立ち上げました。この事例のように、都会で培ったスキルを地方で活かす優秀な人材を呼び込むことが可能です。
※地方交付税交付金:国が地方自治体の財政格差を調整するために交付する資金のこと。
地方ビジネスの実務的課題と解決策
地方でビジネスを展開する際には、都市部では考えられない実務的な課題に直面します。
住宅問題:不動産屋すらいない現実
堀江氏のロケット会社があるのは人口5000人の北海道の町ですが、130人以上の社員の半数以上が移住しています。
直面した課題
- 不動産屋が存在しない
- あっても築40〜50年の老朽化した物件ばかり
- 問い合わせ先すら不明
解決策
Iターン・Uターンした行政書士が不動産事業を開始し、物件探しから名義変更までワンストップで対応。この人物は後に町議会議員選挙でトップ当選を果たしています。
追加対応
- 町営住宅を買い取りリノベーション
- 10部屋程度の社員寮を確保
- 大家からリースする形でキャッシュフロー改善
出会いの場づくり:若手社員の定着策
課題
ロケット会社の社員の9割が理系男子であり、地方では出会いの機会がほとんどありません。
解決策
- 地元企業(お菓子会社など)と連携した合コンイベント開催
- 「将来有望な高収入候補」としてのブランディング
- 地域全体での若者定着施策
この取り組みは単なる福利厚生ではなく、優秀な人材を地方に定着させるための戦略的施策です。
SNS時代の地方プロモーション戦略
現代の地方創生では、SNSを活用した情報発信が不可欠です。
大江ノ郷自然牧場の成功モデル
鳥取県の大江ノ郷自然牧場は、年間150万人が訪れる一大観光施設に成長しました。
成功の経緯
- 父親の大規模ブロイラー養鶏場に反発
- 平飼い高級卵(1個200〜300円)の生産開始
- プリン・ロールケーキ店をオープン
- SNSでバズり、関西・中国地方から観光客が殺到
- 300席のレストランを含む大型施設に拡大
- 廃校を6億円かけてリノベーションしホテル開業
施設の特徴
- 下層:焼き鳥屋、親子丼屋、スイーツショップなど10店舗以上のフードコート
- 上層:鶏料理のフルコースレストラン
- 全店舗が同一経営で鶏卵を活用
「観光地なら400円のプリンも許される」という価格戦略も、観光客の心理を巧みに活用しています。
Twitterの再興と情報発信の重要性
堀江氏は、イーロン・マスクのTwitter買収後、プラットフォームの勢いが増していると分析しています。
Twitter活用のメリット
- 地方のケーブルテレビよりも圧倒的な拡散力
- LINEやTwitterが主要な情報伝達手段に
- 文字メディアとしての潜在力が再評価されている
動画コンテンツへの偏重が一段落し、むしろ文字ベースの情報発信が見直される時代が来ています。地方創生においても、SNSを軸としたメディア戦略の再構築が重要です。
堀江貴文のオンラインサロン合宿が地方にもたらす効果
堀江氏のオンラインサロン合宿は、2泊3日で数百人規模が参加する大型イベントです。これが地方経済に与えるインパクトは計り知れません。
淡路島・神戸合宿の事例
実施内容
- 淡路島の食材を使ったバーベキュー
- 玉ねぎ農家との交流
- 地元食材を使った料理イベント
- 最終的に玉ねぎ専門レストラン構想へ発展
高知県四万十町での取り組み
背景
- サロン会員が1個300円の超高級卵を生産する事業を承継
- サラリーマンから転身し移住
- 別のサロン会員(和食料理人)も移住しレストラン開業準備中
合宿での計画
- 高級卵を使った焼き鳥屋開業
- 「堀江卵(ホリエッグ)」のブランド化
- 卵3個使用の超高級プリン(1個1500円)の開発
このように、オンラインサロンというコミュニティが、実際の地方移住や起業、さらには地域経済の活性化につながっています。
地方創生ビジネスに関してよくある質問
Q1:地方創生ビジネスで最も重要な成功要素は何?
地方創生ビジネスをする上で重要なのは、競争が少ない分野で「圧倒的な品質の決定版」を作ることです。地方の名物は一定の集客が見込めるため、多くの店が努力を怠っています。
ここに本格的な競争原理を持ち込み、革新的なリブランディングを行うことで大きな差別化が可能になります。沖縄そばや帯広豚丼のように、既存の名物を革新することから始めましょう。
Q2:地方で飲食店を開業したいけど職人が見つからない場合、どうすればいい?
地方では冷凍生地システムなどの仕組み化が解決策です。従来は3〜4時間かかっていた生地作りが約1時間に短縮でき、高度な専門技術も2週間程度の研修で習得可能になります。
また、店長候補としては40〜50代の子育て後の主婦層に注目しましょう。人生経験が豊富でコミュニケーション能力が高く、地域ネットワークも持っているため、地方ビジネスに最適な人材です。
Q3:ふるさと納税を自治体の地方創生に活用するコツは?
ふるさと納税の本質は「徴税権の地方分権」にあります。返礼品の充実だけでなく、自治体の創意工夫と営業力が重要です。
実際に北海道のある自治体は、本来の徴税収入8億円に対し、ふるさと納税で150億円を集めています。魅力的な返礼品開発、効果的なプロモーション、そして納税者との継続的な関係構築が成功の鍵です。
Q4:地域おこし協力隊制度を起業に活用できる?
地域おこし協力隊制度も起業に活用できます。地域おこし協力隊は人数無制限で、国から3年間1人あたり年間300万円の支援が受けられます。自治体職員として採用され、選んだ企業等に出向する形式です。
岩手県遠野市では、元リクルート社員がこの制度を活用してビール醸造所「遠野醸造」を立ち上げた成功事例があります。都会で培ったスキルを地方で活かしたい方に最適な制度です。
Q5:地方でSNSマーケティングを成功させるポイントは?
SNSマーケティングを成功させる上で重要なポイントは、文字と動画の両方を活用し、地域の独自性を全国に発信することです。鳥取県の大江ノ郷自然牧場は、高級卵を使ったプリンやロールケーキをSNSで発信し、年間150万人が訪れる施設に成長しました。
TwitterやInstagramは地方のケーブルテレビよりも圧倒的な拡散力があります。「観光地価格」も許容される心理を活用しながら、魅力的なビジュアルとストーリーで情報発信することが重要です。
まとめ:地方創生成功の5つの鉄則
堀江貴文氏の実践から学ぶ地方創生の成功法則をまとめます。
(1)競争がない分野で決定版を作る
既存の名物をリブランディングし、圧倒的な品質の「決定版」を提供することで差別化が可能です。
(2)仕組み化で人材問題を解決する
冷凍生地システムのように、高度なスキルを不要にする仕組みを構築することで、地方の人材不足を克服できます。
(3)国の支援制度を最大限活用する
ふるさと納税や地域おこし協力隊など、既存の制度を戦略的に活用することで、資金面・人材面の課題が解決します。
(4)潜在的な人材(子育て後の主婦層)を発掘する
地方には、旧来の価値観により埋もれている優秀な人材が多数存在します。この層にアプローチすることが重要です。
(5)SNSを活用した情報発信
TwitterやInstagramなどのSNSを活用し、全国に向けて情報発信することで、地方でも十分な集客が可能になります。
地方創生は、単なる理想論ではなく、明確な戦略と実行力があれば確実に成果を出せるビジネス領域です。既存の常識を疑い、仕組み化と情報発信を徹底することで、地方でも十分に収益性の高いビジネスを展開できるのです。

