人口減少が進む日本で、なぜリゾートトラストは3期連続増益を達成できているのか。
その答えは、富裕層に特化した会員制ビジネスモデルにあります。入会金900万円から4,000万円台という高額設定ながら、会員数は20万人を突破。会員制ホテル「エクシブ」を起点に、ゴルフ場、人間ドックへと事業を拡大し続けています。
成功の鍵は、年間3万件にのぼる顧客の声を経営に反映する徹底した顧客志向と、「ナンバーワン戦略」による競争優位性の確立です。
本記事では、バブル崩壊やリーマンショックも乗り越えた同社の成長戦略を詳しく解説します。
リゾートトラストとは?
リゾートトラストは、会員制ホテル「エクシブ」を中心に富裕層向けサービスを展開する企業です。
会員制ビジネスをベースに、ホテル・ゴルフ場・メディカル(人間ドック)など、多角的なサービスを提供しています。創業53年を迎える同社は、現在20万人を超える会員を抱え、3期連続で増益を達成するなど、順調な成長を続けています。
会員制ビジネスの基本構造
リゾートトラストの会員構成は、以下の通りです。
| 事業分野 | 会員数 | 特徴 |
| ホテル | 約14万人 | エクシブ、サンクチュアリコートなど |
| ゴルフ | 約3万人 | 会員制ゴルフ場の運営 |
| メディカル | 約3万5,000人 | 会員制人間ドック |
会員の多くは中小企業のオーナーで、個人利用や福利厚生として活用されています。入会金は900万円から4,000万円台と幅広く、50年間の利用権を購入する仕組みです。
富裕層をターゲットにした理由
社長の伏見有吉氏によれば、「日本の人口は減少していますが、富裕層はまだまだ増えている」とのこと。既存の商品モデルだけでも、今後10〜15年は成長可能と見込んでいます。
会員制ホテル「エクシブ」の特徴
エクシブは、アメリカのタイムシェアリングシステムを日本に導入した会員制ホテルです。
タイムシェアリングシステムとは、365日を14人でシェアする仕組みのこと。たとえば、1月1日の利用権を持つ会員は、14年に1回その日を確実に利用できます。
使わない場合は他の会員と交換可能で、施設間の交換もできるため、施設数が増えるほど選択肢が広がる仕組みです。
エクシブの名前の由来
「エクシブ(XIVS)」という名前は、ローマ数字の14(X=10、IV=4で合計14)に由来しています。創業時の14人でシェアするコンセプトを象徴した命名です。
会員制ホテルのメリット
会員制ホテルには、以下のような利点があります。
- 別荘の維持費が不要:管理や掃除の手間がかからない
- 複数施設を利用可能:同じ場所に飽きることがない
- ホテルサービスを享受:食事や清掃などすべて任せられる
- 福利厚生として活用:企業の従業員向けにも使える
竹内由恵氏も「別荘だと維持費がかかる上に、毎年同じ場所では飽きてしまう。会員制ホテルなら様々な施設を利用できて理想的」と評価しています。
サンクチュアリコート琵琶湖の魅力|非日常を演出する施設設計
2024年に開業したサンクチュアリコート琵琶湖は、リゾートトラストの新しいコンセプトホテルです。
非日常空間を生み出す工夫
- 400mのアプローチ
ゲートからホテルまで約400mの道のりを設けることで、「現実から非日常の空間にワープする」演出を実現しています。 - ベネチアンモダンのテーマ
水の宮殿をイメージした建物は、琵琶湖に浮かぶような設計。ロビーには高さ6m超、3万個のビーズで作られた「光の滝」シャンデリアが吊られています。 - 水盤と琵琶湖の一体感
客室からは水盤と琵琶湖が一直線に見える設計で、まるで水中にいるような体験ができます。ブルーを基調とした家具で統一され、ラグジュアリーでありながら落ち着いた雰囲気を演出しています。
デスティネーションホテルというコンセプト
サンクチュアリコート琵琶湖は「デスティネーションホテル」を目指しています。これは、どこかに行くついでにホテルに泊まるのではなく、ホテルに来ること自体が旅の目的となるコンセプトです。
会員制ホテルならではのホスピタリティ
会員制の強みは、長期的な顧客情報の蓄積と、それを活かしたきめ細かなサービスです。
個別対応の徹底
ホテルに宿泊した際、「コーヒーがお好きと伺っております」と好みの豆を用意されていました。これは会員情報に基づくサービスで、記念日や誕生日にも特別な演出を行うそうです。
ロビーアテンダントは、お客様が玄関に到着した時点で、まずお名前をお呼びしてご案内することを意識していると語ります。顧客一人ひとりを認識し、「〇〇さんに会いに来た」と言ってもらえることを目標にしているとのこと。
人生の最後の旅行先に選ばれる責任
病気などの関係で、人生最後の旅行にリゾートトラストを選んでくださる方もいるそうです。選んでいただいたうれしさと同時に責任感も感じ、目の前のお客様に感動を届けることに全力を尽くしています。
地産地消にこだわる料理
鉄板焼きレストランでは、滋賀県産の近江牛を中心に、できる限り地元の野菜を使用。シェフは「お客様の笑顔をいただくのが好き。どう食べたいのか、何が食べたいのか、その思いを感じ取るように見ながら向き合っている」と話します。
会員情報には味付けの好みや好きな飲み物も記録されており、一人ひとりに合わせたサービスが可能です。
顧客の声を活かす経営戦略|年間3万件のフィードバック活用術
リゾートトラストの成長の鍵は、徹底した顧客の声の収集と活用にあります。
伏見社長のもとには1日100件以上、年間で3万件以上の会員の声が届きます。社長自身がすべてに目を通し、改善につなげているそうです。
社員の自発的な成長を促す仕組み
会員からのフィードバックは社員全員で共有され、「次回お見えになる時はもっと喜んでいただこう」というモチベーションにつながります。一度きりではなく継続的な関係だからこそ、改善のサイクルが回るのです。
伏見社長も「35年前に入会いただいたメンバーと今もプライベートで付き合いがあり、健康相談を受けたり食事に誘われたりする」と話します。このような深い信頼関係が、リゾートトラストの強みです。
経営者が多い会員層の利点
会員の多くが中小企業のオーナーであるため、「貴重な意見をいただける。ファンだからこそ厳しいことも言っていただける」とのこと。わがままな要望も、実は事業改善のヒントになっているのです。
富裕層のニーズ変化
富裕層の価値観は「モノから体験」へと変化し続けています。
近年、特に重視されているのが「時間」です。家族や自分一人でも充実した時間を過ごせることに対価を支払いたいというニーズが高まっています。
コロナ禍がもたらした変化
新型コロナウイルスの流行により、プライベート空間やプライバシーの重要性がさらに高まりました。会員制のクローズドな世界に注目が集まり、部屋で過ごす時間も増えたため、以下のような対応を実施しています。
- 客室を大きめに設計
- インルームダイニングでフルコース提供
- 温泉付き客室の増設
八ヶ岳に新設した施設では、完全独立棟の固定型客室を初めて導入。よりプライベート空間を求める層のニーズに応えています。
会員の声から生まれた新事業
リゾートトラストの事業拡大は、ほぼすべて会員の声からスタートしています。
会員制人間ドックの誕生秘話
1994年、山中湖にホテルを作る際、会員に意見を求めたところ「健康」というキーワードが出てきました。
ホテル事業者として、痛みを伴う治療ではなく、年に1〜2回訪れてチェックする予防医療を考案。画像診断を中心とした会員制人間ドックが誕生しました。
会員制メディカルの特徴
- 完全プライバシーの確保
1日20人程度しか検査を行わず、待合室も個室。他の人に会うことがありません。 - アカデミック機関との共同研究
東京大学をはじめとする研究機関と提携し、健康な人のデータを蓄積。毎年同じ人が同じ場所で検診を受けるため、病気が見つかった際に過去データを遡って研究できます。
研究成果は新しい検査方法の開発につながり、会員はその恩恵を受けられる好循環が生まれています。
早期発見から予防・治療まで
現在は早期発見だけでなく、早期治療や予防医療にも力を入れています。国立がん研究センターとBNCT(中性子を使った癌治療)の開発にも参画しており、「切るのは嫌だ」という希望にも応えられる選択肢を増やしています。
※BNCT:中性子を使った癌治療技術。従来の治療法と比べて体への負担が少ないとされる最新の治療法。
個人の希望に寄り添う医療
重大な病気が見つかった際も、「どんなお金をかけても3年は生きたい」という人と「痛いのは一切嫌だ」という人では、望む治療が全く異なります。
リゾートトラストは、メンバーの希望に徹底的に寄り添うことを重視しています。
シニアレジデンス事業への参入
会員の高齢化に伴い、シニアレジデンス事業にも参入しています。
会員に「エクシブの料理やサービスが受けられ、メディカルチェックもあるシニアレジデンスを作ったらどうか」と提案したところ、約25%が「面白い」と回答。
20万人の会員と配偶者で40万人、両親まで含めると100万人超の潜在市場があります。
クロスセルによる事業拡大
入会の入り口はホテル、ゴルフ、メディカルと分かれていますが、一度会員になれば他のサービスも利用可能です。「ホテルから入会したが、メディカルにも入会する」といったクロスセルが進んでいます。
人生のステージに応じて、リゾート→健康管理→高齢者施設と、一貫してサービスを提供できる体制を構築中です。
リゾートトラストの成長戦略
リゾートトラストは「必ずナンバーワンになる」という尖った戦略を取っています。
ナンバーワン戦略の考え方
会員からのニーズに対して、以下の判断基準で事業化を決めています。
- リゾートトラストだからできることか?
- 絶対にナンバーワンになれるか?
- 他に適切なプレイヤーがいないか?
メディカル事業では「会員制の検診で画像診断に特化する」という尖った部分を作り、その分野でナンバーワンを目指しました。このような尖った部分を増やすことで、大きな競争優位性を築いています。
今後の可能性のある事業領域
会員からの要望として、以下のようなアイデアが出ています。
| 分野 | 内容 | 実現可能性 |
| プライベートジェット | 100人で共有するモデル | 検討中 |
| プロ野球球団 | 1,000人でオーナーになる | 構想段階 |
| 美容医療 | アンチエイジング分野 | 相性良好 |
| 教育 | 留学支援、会員限定の塾 | 可能性あり |
| 気球体験 | アクティビティの拡充 | 実現可能 |
アライアンス戦略
自社だけで実現が難しい分野については、他企業とのアライアンスも視野に入れています。会員制というプラットフォームを活かし、様々な企業と協業してコンテンツを増やしていく方針です。
バブル崩壊やリーマンショックでも成長できた理由
リゾートトラストは、経済危機でも比較的影響を受けにくいビジネスモデルです。
バブル崩壊時やリーマンショック時には、新規入会は伸び悩んだものの、既存会員のホテル稼働率が上がりました。海外旅行を控える人が増え、会員制ホテルの利用が増加したためです。
伏見社長は入社35年間を振り返り、「当然伸びは止まりますが、十分やってこられた」と語ります。会員制ビジネスの安定性が、長期的な成長を支えています。
企業価値向上への取り組み
リゾートトラストには約4万人の個人株主がおり、その半分が会員だと推定されています。
時価総額4,000億円を20万人の会員で割ると、1会員あたりの価値は200万円。伏見社長は「一生のお付き合いの中で、まだまだ我々の会員制の価値を世の中にPRしていかなければならない。これは今後の大きなテーマです」と課題を認識しています。
会員が利用者としても応援者としても、さらには株主としても企業を支える構造が、リゾートトラストの強みです。
リゾートトラストに関してよくある質問
Q1:会員制ホテル「エクシブ」の入会金はいくら?
エクシブの入会金は900万円から4,000万円台と、幅広く設定されています。
50年間の利用権を購入する仕組みで、会員は14人で365日をシェアするタイムシェアリングシステムを採用しています。使わない日は他の会員と交換可能で、複数の施設を利用できるのが特徴です。
Q2:会員制ホテルと別荘の違いは何?どちらがお得?
会員制ホテルは別荘と異なり、維持費や管理の手間が不要です。別荘の場合、固定資産税や清掃・メンテナンス費用が継続的にかかりますが、会員制ホテルは入会金のみで複数の施設を利用でき、食事や清掃などのサービスも受けられます。
また、毎年同じ場所ではなく様々な施設を選べるため、飽きることがないのも大きなメリットです。
Q3:なぜリゾートトラストは経済危機でも成長できた?
会員制ビジネスの安定性が主な理由です。バブル崩壊やリーマンショック時には新規入会は伸び悩んだものの、既存会員のホテル稼働率が上昇しました。
海外旅行を控える富裕層が会員制ホテルの利用を増やしたためです。一度入会すれば長期的な関係が続くため、経済環境の変化に比較的強いビジネスモデルとなっています。
Q4:リゾートトラストの会員制人間ドックとは?
完全プライバシーを確保し、1日20人程度のみ検査を行う完全予約制です。待合室も個室で、他の受診者に会うことはありません。
画像診断を中心とした予防医療に特化しており、東京大学などの研究機関と共同で健康データを蓄積。毎年同じ人が同じ場所で検診を受けるため、病気が見つかった際に過去データを遡って研究できる仕組みになっています。
Q5:リゾートトラストは今後どのような事業展開を考えている?
会員の声をもとに、プライベートジェットの共有サービス、美容医療、教育分野などへの参入を検討しています。特にアンチエイジングや留学支援は、会員制ビジネスとの相性が良いとされています。
また、シニアレジデンス事業にも注力しており、ホテル→健康管理→高齢者施設と、人生のステージに応じて一貫したサービスを提供する体制を構築中です。
まとめ|会員制ビジネスの成功ポイント
リゾートトラストの成功要因は、以下の5点に集約されます。
- 徹底した顧客の声の収集と活用:年間3万件のフィードバックを経営に反映
- 長期的な信頼関係の構築:35年間の付き合いが生む深い絆
- ナンバーワン戦略:尖った分野で確実に1位を取る
- クロスセル戦略:ホテル→メディカル→シニアと人生に寄り添う
- プライバシーと非日常の両立:富裕層の価値観変化に対応
会員制ビジネスは、単なるサービス提供ではなく、「会員と一緒に成長する」関係性が本質です。
自分では思いつかなかった可能性を、会員との対話から見出していく。このスタイルが、リゾートトラストの持続的成長を支えています。
今後も富裕層人口の増加が見込まれる中、会員のニーズに徹底的に寄り添い、ナンバーワンの領域を広げていくリゾートトラストの戦略は、他業界にとっても参考になるモデルと言えるでしょう。

