「いい感じにやっといて」
こんな曖昧な指示に困った経験はありませんか?8割の人が「自分は言語化できている」と思い込んでいますが、現実はまったく逆です。
本記事では、トヨタの「なぜ」より効果的な「そのために」を3回繰り返すテクニックや、言語化の達人が実践する比較思考、定義の考え方まで、誰でも今日から使える具体的手法を解説します。
言語化とは?
言語化とは「明確化すること」です。
多くの人が言語化を「短く伝えること」や「キャッチコピーをつけること」だと誤解しています。しかし、言語化の本質は物事を明らかにし、誰もが同じ認識を持てる状態にすることです。
言葉で表現していても、「いい感じにやっといて」のような曖昧な指示は言語化されていません。一方で、図やイラストでも内容が明確になっていれば、それは立派な言語化といえます。
今、言語化が求められる理由
ビジネスにおいて言語化の重要性が高まった背景には、コミュニケーションのストレスが限界に達したことがあります。
- 世代間の暗黙の前提が異なる
- リモートワークの普及で肌感覚が伝わらなくなった
- 「わかるだろう」が通用しない時代になった
これまで「なんとなく」で通用していたコミュニケーションが、もはや機能しなくなっています。
その結果、言葉にしなければ伝わらないという現実に直面し、言語化スキルの必要性が急速に認識されるようになりました。
ビジネスに必要な言語化の3要素
ビジネスにおける言語化は、立場によって明確にすべき対象が異なります。
| 立場 | 言語化すべき内容 |
| 経営者 | ビジョン(会社の方向性や目指す姿) |
| リーダー | メンバーが取るべきアクション |
| メンバー | 日々のコミュニケーション内容や自分の考え |
それぞれの役割において、何を明確にすべきかを理解することが、効果的な言語化の第一歩となります。
特に重要なのが、リーダーによるアクションの言語化です。
スポーツに例えると、監督が選手に具体的な作戦やサインを出すように、リーダーはメンバーに対して「何をすべきか」を明確に示す必要があります。
「自分で考えろ」「俺の背中を見ろ」という指導方法は、基本を教えないまま応用を求める行為に等しく、効果的ではありません。
武道における「守破離(しゅはり)」という考え方があります。
- 守:師匠の教えを忠実に守る
- 破:基本を身につけた上で自分なりに工夫する
- 離:独自のスタイルを確立する
最初から「自分で考えろ」では、基本となる「守」の段階を飛ばしてしまいます。リーダーがアクションを言語化することは、メンバーの思考力を奪うのではなく、成長の土台を提供する行為なのです。
言語化できている「つもり」の罠
8割の人が「自分は言語化できている」と思い込んでいます。
アンケートによると、約8割の人が「言語化は重要だ」と回答し、同時に約8割の人が「自分はできている」と答えました。この結果が示すのは、多くの人が言語化できていないという現実です。
ビジネスシーンで最も頻繁に使われる曖昧な指示が、「いい感じにやっといて」です。
リクルート社では「良しなにやっといて」という言葉が口癖になっているといいます。指示を出した側は伝えたつもりになり、相手にボールを渡したと認識しますが、実際には何も明確になっていません。
この状態を改善するには、自分の指示は不明確であるという前提に立つことが不可欠です。
言語化を実践する具体的テクニック
「そのために」を3回繰り返す方法
曖昧な指示を明確にするには、「そのために何をするか」を3回繰り返してください。
たとえば「資料をいい感じに作っておいて」という指示を明確にする場合、以下のように展開します。
- 指示:資料をいい感じに作ってください
- そのために①:あなたが気に入っている雑誌を10冊集めて、良いと思ったビジュアルを切り抜いてください
- そのために②:良いと思ったビジュアルを特定するために、あなたが好きなタレントさんが映っている写真を10枚集めてください
- そのために③:その写真から共通する要素(色使い、レイアウトなど)を抽出してください
このように3段階で掘り下げることで、最初の指示よりも格段に明確になります。
「なぜ」を5回繰り返すのが難しい理由
トヨタ自動車の「なぜを5回繰り返すと本質にたどり着く」という手法は有名ですが、実は現場に実態がある場合に限り有効です。
「いい資料が作れないのはなぜか」という問いから始めると、以下のように脱線しがちです。
- なぜか → 自分に発想がないから
- なぜか → くだらない番組しか見ていないから
- なぜか → 日本人が勉強しないから
- なぜか → 大学が勉強しなくても卒業できるから
最終的に「資料が作れないのは大学の教育制度が悪い」という、まったく関係のない結論に至ってしまいます。
これに対して「そのために何をするか」という問いかけは、常に目的に向かって掘り下げることができるため、実践的で効果的なのです。
言語化が上手な人の2つの特徴
特徴1:常に比較して考える
物事を比較することで、対象が捉えやすくなります。
たとえば「今日の気温は15度です」と言われても、何も感じません。しかし「昨日より5度下がりました」と言われれば、「寒い」という認識が生まれます。
マーケティングにおいても、自社商品だけを見ていては特徴がわかりません。他社商品と比較して初めて、自社の強みや弱みが明確になります。
言語化が得意な人は、常に何かと何かを比較して物事を捉えています。
- 1年前の自分と今の自分
- 自社製品と競合製品
- 理想の状態と現在の状態
特徴2:言葉の定義を徹底的に考える
言語化の究極は「定義」にあります。
木暮氏は中学2年生の時から、日常的に言葉の定義を考え続けているといいます。ハワイのプールでリラックスしている時でさえ、「南国とは何か」「リゾートとは何か」と考えているそうです。
多くの人が誤解していますが、定義とは「○○とは△△である」という言い換えではありません。定義とは必要条件を挙げることです。
たとえば「人生とは冒険である」という表現は、言葉を入れ替えているだけで何も明確になっていません。一方、「リゾート」を定義するなら、以下のような必要条件を挙げます。
- 海が綺麗
- 半袖・短パンで過ごせる
- 人が少ない
この3つの条件が揃って初めて、木暮氏にとっての「リゾート」が成立します。人によっては「ショッピングができる」という条件が加わるかもしれませんし、「ゴルフができる」が重要な人もいるでしょう。
定義を明確にすることで、自分と相手の認識のズレが可視化され、真のコミュニケーションが可能になります。
目標設定における言語化の重要性
KPIだけでは不十分な理由
数値目標(KPI)は重要ですが、それだけでは不十分です。
※KPI(Key Performance Indicator):重要業績評価指標。目標達成度を測るための数値。
営業職であれば売上や契約件数で測定できますが、以下のような仕事はKPIで測りにくい特性があります。
- 企画職の創造性
- 話し方や対応の質
- チームの雰囲気づくり
これらをすべて数値化しようとすると、本質を見失う危険性があります。
質的なゴール設定
KPIと並行して、質的なゴールを設定することが重要です。質的ゴールの定義は、「誰かが何かをできるようにする」ことです。
すべての仕事は、最終的に誰かをハッピーにすることにつながっているはずです。ハッピーとは「変化」を意味します。商品やサービスの価値とは、「こうだった状態がこうなる」という変化をもたらすことです。
質的ゴールの具体例
- 視聴者が「できなかったことができるようになる」
- 制作スタッフが「1時間かかっていた作業が30分でできるようになる」
- クライアントが「自社の強みを言語化できるようになる」
このように、自分の仕事が「誰の」「何を」「どう変化させるのか」を明確にすることで、数値では測れない貢献感や達成感が得られます。
効果的な問いかけと伝え方
進捗確認の正しい方法
問いかけをする前に、自分が明確な指示を出したかを確認してください。
部下やメンバーに「資料の進捗はどう?」と聞く前に、そもそも明確な指示を出していたかを振り返る必要があります。
効果的な問いかけのポイントは、基準を示すことです。
- 悪い例:「どのくらい進んでる?」
- 良い例:「50%くらいは進んでるかな?」
基準を示すことで、相手は「いや、実は30%くらいです」と正確な状況を伝えやすくなります。また、「そうじゃなくて」という返答を引き出すことで、認識のズレを早期に発見できます。
数から考えるテクニック
質問に答える時は、「大きく分けると○種類です」と数から答えてください。
このテクニックは語彙力に関係なく、誰でも実践できます。
- 「この問題の原因は大きく分けると3つあります」
- 「解決策は2種類考えられます」
- 「メリットとデメリットがそれぞれ2つずつあります」
数を先に示すことで、話し手と聞き手の頭の中に共通の枠組みができ、情報が整理されやすくなります。
言語化スキルを高めるトレーニング方法
アウトプット前提でインプットする
インプットだけでは言語化スキルは向上しません。
木暮氏は学生時代、授業を理解できない友人に教えることを前提に授業を聞いていました。このアウトプット前提のインプットが、言語化能力を飛躍的に高めたといいます。
本を読むだけ、講義を聞くだけでは、自分が理解できていない部分に気づけません。誰かに教える、ノートにまとめる、SNSで発信するなど、アウトプットすることで初めて自分の理解度が確認できます。
日常で言葉の定義を考える習慣
言語化の達人になるには、日常的に言葉の定義を考える習慣をつけることが効果的です。
- 「働くとは何か」
- 「成功とは何か」
- 「幸せとは何か」
これらの抽象的な言葉について、自分なりの必要条件を挙げてみましょう。最初は難しく感じるかもしれませんが、継続することで確実にスキルが向上します。
言語化に関してよくある質問
Q1:言語化とは具体的に何?短く伝えることとは違う?
言語化とは「物事を明確にすること」であり、短く伝えることやキャッチコピーをつけることではありません。本質は、誰もが同じ認識を持てる状態にすることです。
言葉で表現していても、「いい感じにやっといて」のような曖昧な指示は言語化されていません。逆に、図やイラストでも内容が明確になっていれば、それは立派な言語化といえます。
重要なのは表現手段ではなく、明確化できているかどうかです。
Q2:「なぜを5回」と「そのために3回」の違いは?どちらが効果的?
「なぜを5回」は現場に実態がある問題解決に有効ですが、抽象的な課題では脱線しやすい弱点があります。
たとえば「資料が作れないのはなぜか」と問うと、最終的に「大学の教育制度が悪い」など関係のない結論に至りがちです。
一方、「そのために何をするか」は、常に目的に向かって掘り下げられるため実践的です。曖昧な指示を具体的なアクションに変換できるため、ビジネスシーンでは「そのために3回」の方が効果的といえます。
Q3:自分が言語化できているか判断する方法は?
言語化できているかの判断方法として最も効果的なのは、「自分は言語化できていない」という前提に立つことです。
統計では約8割の人が「自分はできている」と思い込んでいますが、実際は多くの人ができていません。判断基準としては、相手が「いい感じに」「良しなに」などの曖昧な言葉なしで具体的な行動を起こせるか確認しましょう。
また、自分の指示を他人に説明できるか、基準や条件を明示できているかもチェックポイントです。
Q4:リーダーがメンバーに「自分で考えろ」と言うのは間違い?
基本を教えないまま、「自分で考えろ」と言うのは効果的ではありません。
武道の「守破離」という考え方があり、まず師匠の教えを忠実に守り(守)、基本を身につけた上で工夫し(破)、最後に独自のスタイルを確立する(離)というプロセスが重要です。
リーダーがアクションを言語化することは、メンバーの思考力を奪うのではなく、成長の土台を提供する行為です。基本を明確に示した上で、徐々に自主性を促すアプローチが効果的です。
Q5:言語化スキルを高めるために、今から始められる特訓方法は?
言語化スキルを高める最も手軽に始められる方法は、「数から答える習慣」です。質問に答える時は「大きく分けると○種類です」と数を先に示すことで、語彙力に関係なく情報を整理できます。
また、「そのために何をするか」を3回繰り返す練習も効果的です。さらに、日常的に物事を比較して捉える習慣(昨日と今日など)や、抽象的な言葉の定義を考える習慣(「働くとは何か」など)も有効です。
アウトプット前提でインプットすることも重要で、本を読んだら誰かに説明する、SNSで発信するなど実践しましょう。
まとめ│言語化は誰でも習得できるスキル
言語化できる人とできない人の違いは、才能ではなく「明確化」を意識しているかどうかです。
本記事で紹介した以下のポイントを実践することで、誰でも言語化スキルを高められます。
- 自分は言語化できていないという前提に立つ
- 「そのために何をするか」を3回繰り返す
- 比較して物事を捉える
- 言葉の必要条件を考える
- 数から答える習慣をつける
- アウトプット前提でインプットする
ビジネスにおいて、言語化は単なるコミュニケーションスキルではありません。自分の行動を変え、チームの生産性を高め、組織全体の方向性を明確にする基盤となるスキルです。
「いい感じに」を卒業し、明確なコミュニケーションを実践することで、あなたのビジネスは確実に前進します。今日から、小さな一歩として「そのために何をするか」を3回繰り返すことから始めてみてください。

